知っておきたい遺言の基礎
2024/10/01

 遺言は、ご自身が亡くなった場合に財産を誰にどのように分配するか等について、自己の意思を明らかにするものです。

 相続発生時にお亡くなりになった方(被相続人)が作成した遺言書が存在する場合には、「基本的には」その内容に基づいて財産の分配が行われます。

 ただし、相続人全員の意思が一致した場合は話し合い(遺産分割協議)によって、遺言書の内容とは異なる財産の分け方を決めることも出来ます。


 遺言書には主に自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書があります。
 
 ここでは自筆証書遺言と自筆遺言書保管制度についてメリット・デメリットをご説明します。


 ◎自筆遺言書

 本人が遺言の全文を手書きで作成する遺言書です。財産目録についてはパソコン等で作成が可能です。

 メリット;費用がかからず、手軽に取り掛かれる。

 デメリット;
  @ 不備により無効となる可能性がある。改ざんの恐れもある。
  A 遺言者が亡くなった後、遺言書の保管者や発見した相続人は、開封しないまま家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。


 「検認」とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の内容を明確にし、遺言書の偽造、改ざんを防止するための手続きを言います。

  
 メリットである「作成の手軽さ」の後には、自分の死後、家庭裁判所での「検認という煩雑な手続き」が控えていることも知っておく必要があるでしょう。



◎自筆証書遺言保管制度

 自筆遺言制度のデメリットを克服するため、法務局が自筆遺言証書を保管する自筆証書遺言保管制度の運用が、令和2年7月から始まりました。


 メリット; 紛失・改ざんの恐れがない。
 家庭裁判所の「検認」が不要である。
 遺言者が死亡した場合は、遺言書が保管されていることを事前に登録した相続人等へ知らせてくれる。この費用も含め3千円程で済む。


 デメリット;
 遺言者は法務局に出向かなくてはならない。
 法務局は、持ち込まれた自筆証書遺言の外形的チェックを行うのみであるので、内容の不備等の問題が後に生じる可能性がある。
 届出時の住所氏名が変更する場合は、都度届け出が必要という煩雑さがある。
 
 

「所有者不明土地」の解消に向けて
2024/09/13

現在、日本中で所有者が分からない「所有者不明土地」が増えており問題となっています。


「所有者不明土地」が増えている原因は、

相続人が土地を相続しても相続登記を行わないこと、

不動産登記簿謄本で所有者が判明しないこと、

と考えられています。

さらには所有者が判明しても所在が不明で連絡がつかないことも、「所有者不明土地」が増えている原因です。


令和3年4月に、不動産登記法の改正を含む「民法等の一部改正及び相続土地国家帰属法」という法律が成立しました。

このうち「相続登記の義務化」や「相続人申告登記」が本年4月1日に施行されました。

さらに令和8年4月からは、「住所等の変更登記申請]の義務化も施行となります。


登記記録は、土地や建物ごとに作成されています。

全国の不動産から特定の所有者が登記人になっているものを、網羅的に抽出する仕組みがありません。

したがって、たとえば、登記名義人のAさんが死亡してもAさんの相続人は相続財産の存在に気がつかず、結果として相続登記をせず放置してしまうケースがありました。


今後はこうした問題が少しずつ解決されていくでしょう。


ちなみに、正当な理由なく申請を怠った場合は過料が課されます。







死亡保険金
2024/08/07

相続税の申告を行う現場の税理士として日頃思うことは、「死亡保険金は有難い」ということです。

相続発生後に保険会社に連絡、保険金請求をすれば直ちに保険金が支給されるため、緊急に必要とされる葬儀費用や入院費の支払いをはじめ残された遺族の当面の生活費用を賄うことができます。

相続税の納税資金の手当てもできます。

また、相続税の申告においては、

死亡保険金の非課税枠があるのも大きな特典でしょう。

500万円×法定相続人の数の金額が非課税です。

つまり非課税枠内の生命保険金額であれば申告不要です。

このように良いことずくめに思われますが、
保険料の支払いはあくまで無理のない金額であることは最低条件です。


また生命保険の契約によっては、様々な税金が絡み、判断が難しい契約ともいえます。

「被保険者、保険料の負担者、保険金受取人」

の契約関係によっては、

所得税や贈与税がかかることがあります。


契約は慎重に行う必要があり、税理士などの専門家のアドバイスも活用していただきたいと思います。

 

定額減税で引ききれない場合について
2024/06/16

 今月6月から定額減税が始まりました。
 この減税は本年12月までに完結させないとならないため、お客様からは、

「減税しきれない場合はどうなりますか?」

というご質問が寄せられています。


 納税者本人と扶養親族の人数により算定された所得税の定額減税額、すなわち、

 3万円(本人分)+3万円×(扶養親族の数)の合計額が、減税前の所得税額を上回って引ききれないケースについてです。
 

 複雑怪奇な手順と言わざるを得ませんが、次のように給付されます。
 

 引ききれない所得税は、個人住民税が課税されている自治体が納税者に給付することになっています。

 具体的には、令和6年分所得税が確定する前に、

令和5年分の課税状況に基づき定額減税で引ききれないと見込まれる額を、
今年の夏以降に給付するとされています。

 給付額は1万円単位で「切り上げて」算出するとのことです。


 そして令和6年分所得税が確定した後、定額減税給付不足分は追加給付が行われます。
 


令和6年6月から「定額減税」始まる!
2024/03/30

 令和5年10月の岸田総理が所信表明演説で最優先課税として掲げたのが経済。

その一つが「国民への還元」です。

令和6年税制改正の成立で、令和6年6月から定額減税が実施されます。


 複雑怪奇(日経クロステック2024/3/30)

と酷評されても仕方ないのは、以下のように複雑な制度設計のためです。


@減税と給付の組み合わせ

給与支給時に減税したのち、減税しきれない世帯に給付を行う。


A所得税(国税)と住民税(地方税)に分けて実施。

年収額、扶養親族の人数によっては減税タイミングが異なる。

所得税は令和6年6月から定額減税3万円を順次行っていき12月の年末調整で完了する。

個人住民税は令和6年7月から定額減税1万円を控除した後の年税額の11分の1の額を令和7年5月まで、給与から徴収する。


B年末調整で、残った所得税減税分を一括精算処理

残念ながら、年末調整だけで所得税の精算処理を終わらせることは出来ない!


C2024年に実施して終わりの一度限りの措置

待ったなしの対応!が事業者に迫られる。



 日本の企業の99.7%が中小企業です。(独立行政法人中小機構の調査)

 企業への事務負担が増大するのは目に見えています。

 生産性向上が喫緊の課題である中小企業にとっては足かせになることが予想されます。

 また地方自治体の事務量も増えるでしょう。


 お客様にはこの減税テクニックを理解し、間違えなく給与計算を行っていっていただくためのサポートが必要と思います。




自筆遺言書というもの
2024/01/07

 相続申告をご依頼のあるお客様から、「実はこんなものが出てきまして」とノートに書かれたお亡くなりになられた方(妻)の自筆遺言書を見せられました。

お亡くなりになられた方は弊事務所のお客様です。

 自筆、作成日が記載、押印など自筆遺言書としての書式は整っているように見受けられましたが、

内容が次男にすべてを相続させる、というものでかつ遺言執行者に次男を指定するというものでした。

「付言事項」として相続税手続きは税理士鳥居順子に依頼することと書かれ連絡先の電話番号も記載されていました。


 「これ、一応お見せしましたが、見なかったことにしていただけますか。破棄して良いですね」とご主人。


 破棄してはなりませんが、遺言書があってもそれは絶対でなく遺産分割協議をして相続人皆さんの合意があればそれが優先されます、とお話ししました。


 遺産分割協議の結果、相続人皆さんが納得し被相続人(お亡くなりになった方)およびその夫(子供たちにとっては父)に感謝する内容の分割となりました。


 自筆遺言が必ずしも理性的で思慮深い内容であるとは限らず、復讐・怒りといった情念のなかで書かれたものかも知れず、一概に遺言書が相続争いを防ぐ手段とは言えないと再確認しました。
 


税込1万円未満の返還インボイス、交付不要!
2023/10/01

 いよいよ消費税のインボイス制度の運用が始まりました。


 インボイス登録事業者が国内で行った消費税のかかる取引について、令和5年税制改正で以下の改正が行われました。


 当初、消費税のかかる売上取引については、売上げた事業者には、金額の多寡にかかわらず、値引きや返品などを行った場合に、『返還インボイス』の交付義務がありました。




 たとえば、事業者は売上げについて端数切捨てで相手側に請求することがよくあります。


この値引きについても『返還インボイス』を作成し、相手に交付しなくてはならないのは、重要性に乏しく
かつ納税者を苦しめるだけの作業と国も考えたのでしょうか。


 令和5年度税制改正により、税込1万円未満の値引等である場合は、『返還インボイス』の交付義務が免除となりました。


 この措置はすべてのインボイス発行事業者が対象となり、適用期限のない措置となります。
 

祖父母からの教育資金の一括贈与
2023/08/06

 弊事務所ではお孫さんへ教育資金の一括贈与を行うお客様が少しずつ増えています。

自己の所有する現預金を生涯自分一人では使いきれないであろう、と判断された高齢のお客様が利用されています。


 孫一人への教育資金の一括贈与の非課税枠は1500万円(使途によっては500万円)ですが、使い道に学校の授業料など一定の、ある意味厳しい制限が設けられており、贈与を行う方にとっては孫に無駄遣いなどされない、将来に役立つ贈与として安心できる内容となっています。


 さて、この教育資金の一括贈与は、税金面でも利点があります。
 
まず、贈与を受ける孫には30歳になるまで贈与税がかかりません。

 次に、贈与を行う方が、孫が23歳になる以前に死亡した場合、贈与した金額から教育資金として支出した残額は相続財産とみなされません。


富裕層への優遇税制だという批判を受け、令和5年税制改正では相続税の課税対象となる財産が5億円を超える場合は、相続税財産に加算される、など改正が行われました。
 

しかし、一定の条件下であれば自己資金の移動(正確には、信託財産)に贈与税もかからず、相続税もかからない、というのはある意味すごいことです。

 一定の条件下、と書きましたが、これが複雑、税の予測が必要でうかつに行動に移せないと贈与と思います。


 教育資金の一括贈与は、窓口の金融機関と契約を結ぶのですが、贈与税や相続税に影響が及ぶ事案ですので、事前に税理士にご相談されることをお勧めいたします。
 
 

遺言書を作成したい!
2023/05/07

 法務省は年内にも有識者による研究会を立ち上げ2024年3月を目標に「デジタル遺言」の方向性を提言します(2023年5月6日付日本経済新聞)。

「デジタル遺言」とは、遺言者がネット上で顔写真撮影などと組み合わせ遺言書を作成し、電子証明書をつけてクラウドで保管するというものです。


 2019年の民法改正で、自筆遺言書に財産目録のパソコン利用が認められ、

翌2020年7月には法務局が自筆遺言の保管制度を開始しました。

 遺言書の作成方法はこのように進化し続けています。

 作成方法は進化しているものの、遺言の内容をどうするかは進化とは無縁です。

その方の人生の最終決算、人生を賭けたきわめて困難な作業といえるでしょう。

一歩間違えば遺言書が「争い」を誘発しますし、「争い」ではなくても予期せぬ事態を招くことがあるからです。

 たとえば、Aさんが「私の〇〇の財産を、子供の△△に相続させる。」と遺言書に書いたとします。

このとき、Aさんはよもや子供の△△が自分より先に亡くなることは想像だにしていません。

でも、実際には起こりうることで、私も経験しました。

遺言には予備的遺言(もし△△が自分より先に死亡した場合には・・云々)が必須です。

これがないと、たとえば上記の例では、子供△△に行くはずの財産〇〇が相続人全員の共有財産となってしまいます。


 残された者のために「遺言書を書きたい!」

この気持ちを実現するためには、専門家の知見が必要かと思います。


 先日も50代のあるお客様から「遺言書を書いてみたのですが、見てもらえますか」と自筆遺言書を差し出されました。いろいろ指摘させていただき書き直しをお勧めしました。「え、そこまで考えるのですか!」と驚かれたようです。


 時間をかけて考え、専門家にも相談し、

人生最後の意思を表明する遺言書が

残された方々の幸せを実現するものであって欲しいと思います。
 

 
 
 

退職手当金等を受けた方の確定申告について
2023/02/05

 退職手当金等は、

長年の勤労に対する報償的な給与として一時的に支払われるため

税負担が軽くなるよう税法上の取扱いが優遇されています。


 ところで退職手当金等とは、

  会社から支払われる退職手当金等以外にも、

小規模企業共済による共済金を一括で受け取る場合

iDeCo(個人型確定拠出年金)を一時金で受け取る場合

なども

 退職所得として取り扱われます。


 加入期間に応じた退職金所得控除額を差し引いた額の1/2が課税対象となります。


 退職手当金の支給者(会社など)に

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、

退職手当金の支給者(会社など)が所得税額を計算し源泉徴収するため、


原則としては確定申告の申告は不要です。


 他方、退職手当金の支給者(会社など)に

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、

 20.42%の源泉所得税が徴収されていますので、


 確定申告を行い、所得税を精算なさってください。